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2018年05月06日 21:02

【レビュー】イム・シワンが誠実さと狂気の狭間で揺れ動く美しい男を演じた韓国ノワールの傑作映画『名もなき野良犬の輪舞』上映中。人を信じるのか?なにを信じるのか?

仁義と友情と裏切り、裏社会での権力争い、そこに渦巻くカネと欲望。フィルムノワールはフランス語で《暗黒映画》、バラ色に対する黒色を意味している。フィルムノワールは1940年代~50年代のアメリカの犯罪映画を呼ぶ。退廃的な暗いノワール作品はアメリカで発祥しフランス、香港でジャンルを築き、韓国にも受け継がれた。「チェイサー」(2008)、「アジョシ」(2010)、「新しき世界」(2013)などの作品で世の中に強烈に印象づけた。

「名もなき野良犬の輪舞」は、韓国ノワールを踏襲し、スタイリッシュなアクションが鮮烈な作品だ。冒頭の真っ赤なコンバーチブル、上空からのカメラアングルはヌーヴェルバーグ作品の雰囲気も併せ持ち、血生臭さを感じさせない、どこか乾いた、それでいて耽美的なアートのようでもある。
第70回カンヌ国際映画祭をはじめ、2017年の世界の映画祭で絶賛された新時代の韓国ノワール作品だ。

この作品に、俳優のキャリアを一歩ずつ積み重ねてきたイム・シワン(ZE:A)が、ソル・ギョングと肩を並べて出演している。彼の美しさが、多くのシーンで説得力を持つ。

◆ストーリー
犯罪組織のトップに成り上がるという野望を持つ受刑者ジェホ(ソル・ギョング)は、刑務所へ入所してきた物怖じしないヒョンス(イム・シワン)と出会う。ジェホは他人を一度も信じたことはなかったが、刑務所の中でもジェホの命を狙う者から救ってくれたヒョンスを次第に信頼し、彼と組んで犯罪組織を乗っ取ろうと考える。出所後、2人の関係性は変化していき、悲しき結末へと向かう ・・・。

誰も信じずに生きてきたジェホの孤独で繊細なカリスマ性と、愛されることを知っている者の明るさと背中合わせの狂気をまるでメビウスの輪のようにナチュラルな個性としてしまうヒョンス。母の死、ボスの思惑、仕事の使命感・・・さまざまなファクターが重なり、やがて裏切りと復讐が壮絶なエンディングへつながる。人を信じるということ。言葉にしてしまうと簡単だが、この物語の中で生きる男たちにとって、なにを?誰を?信じることが、自分の命と天秤にかけるような状況を生む。

私達が生活する平凡な日常の中でも、誰もがいろいろな過去を持ち、トラウマを持ち、大小はあっても一度や二度の裏切りを経験しているだろう。ピュアに信じることから遠ざかってる人が、「それでもあなたを信じるよ」と言われたとき、止まっていた心の中の歯車がかすかに動き始める音が聞こえるような感覚。そこに共感できるかは、信じたいけど疑ってしまう、相手がなにものでも信じてる・・・というような、どこの世界にでもある心の葛藤を、誰もが知っているからではないか。

ジェホはヒョンスに、この人になら騙されてもいい、という気持ちがあったのではないだろうか。その切なさが、物語を残酷に終わらせる。

(text:Kiyori Matsumoto)

『名もなき野良犬の輪舞』
監督:ビョン・ソンヒョン『マイPSパートナー』
出演:ソル・ギョング『シルミド SILMIDO』 イム・シワン『弁護人』、チョン・ヘジン『王の運命―歴史を変えた八日間―』、キム・ヒウォン『アジョシ』 イ・ギョンヨン『ベルリンファイル』

2017年/韓国映画/120分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:石井 絹香/原題:불한당: 나쁜 놈들의 세상/提供:ツイン、Hulu/PG12
https://norainu-movie.com/
配給:ツイン

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●5月5日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

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